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ぶっちゃけどうなの?

二地域居住のメリットは? 何の役に立つの?

馬場未織馬場未織

2016/10/14

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何に役立つ? 二地域居住

東京と南房総に居を構えて10年。

二地域居住という暮らし方を続けるなかで、このライフスタイルをプレゼンテーションすることがよくあります。そんななかで、子育て、仕事、人生、いろいろな切り口において「結局、二地域居住のメリットは何なのですか?」といった結論を求める質問をもらうことがあります。

そんなとき、割とドキッとしますね。

なぜならわたしは常に、「二地域居住は、こんなメリットがあります!」という言い方を意図的に避けて伝えているからです。それが聞きたいのに~とモヤモヤする人もいるでしょう。

やろうと思えばできる気がします。

たとえば子育ての面でのメリットをあげれば、

 1:たくさんの生きものと接することで、子どもの興味が広がります!
 2:体動かして大きな声出しても怒られずのびのびさせてあげられます!
 3:自分で遊びを発見する力がつき、ゲームに頼らない子に育ちます!
 4:空気がいいので、ぜんそくやアトピーがよくなったり体にもいいです!
 5:大きくなってからの学力、果ては年収にまでよい影響があるそうです!
 (結論)幼少期の自然体験の効果はてきめんです。みなさんもぜひ! 

なるほど、わかりやすいですね。笑。

絶対的に正しい」と言い切られたい

もし仮に、子育ての面から二地域居住を推進しようとすれば、上記のような言いぶりをしないと多くの人にわかりやすく伝えることができないのかもしれません。

ただ、わたしはたった3人の子どもを育てている最中という分際ですから、上記のようなことを責任もって言い切ることはできません。またそれよりなにより、サプリメントを飲むように効果を期待して二地域居住をしているのではない、というところで違和感を持ってしまいます。

わかりやすくシンプルに伝えることは、とても大事です。一方で、「わかりにくいけれど本質的なこと」が取りこぼされてしまうリスクを孕んでいます。

田舎暮らしを人生に取り入れるのは、合理的な暮らしと逆向きの発想です。「費用対効果」という意味では、本当に人それぞれの評価になると考えています。子どもにとっていいことをしただけなのに、こんなにいろんな苦労があるの!? と思う人もいるでしょうし、子どものためと思って始めてみたらオトナがこんなに楽しいとは! と夢中になる人もいるでしょう。一面的に語ることができないのが、“暮らし”です。

それでも世の中は、わかりやすいことや、定義を求めます。

まるで雑誌の項目のようにメリットが項目立てられれば、カンタンに価値判断ができますし、そういうものが世間ではブームになっていきます。糖質をとらなければ痩せる、母乳で育てれば元気な子になる、…ある面では正しいけれど、絶対的に正しいとは限らない。

それでもあえて「絶対的に正しい」と言い切ることで、人々は安心してその軸に身を委ねるのです。

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役に立たないけどやる、という価値

仮に「田舎暮らしでいい子が育つ」と言い切っても、さほどなウソではないかもしれません。

でも、田舎暮らしをすることで学力が上がらなくても、年収の高い仕事につかなくても、子育て期間に田舎暮らしをするという人生は親にも子にも悪くない。そう思える暮らしでありたいところです。

「結果にコミットする」ことから逆算して人生を組み立てようとすれば、二地域居住なんて無駄や予測不能が多すぎるからやめたほうがいい。

たとえば、わが家の場合は息子の生きもの好きが引き金となって二地域居住を始めましたが、「虫が好きな部分を伸ばしてやったら将来博士になるかもしれない、身がたつかもしれない」ことを狙っていたわけではありません。また、本人は中学生になった時点で生きもの好きからガチ水泳部員へ転じてしまい、部活が忙しくて二地域居住常連メンバーから外れ、当初の目的はどこへやら、となりました(ところがつい最近、また生きもの好きが復活してきているのですが!)。

田舎暮らしは実に多面的で、長い流れのなかで田舎に対する思いは変容しますし、ハプニングやストレスがあったり目的がすり替わりながらも、新たな楽しみが生まれて続いていきます。

なぜ、続いているか。

それは、見返りなど何も期待せず、ただひたすらその時間の豊かさに、没頭できるからです。

結果から逆算して行動することも、仕事などにおいては重要でしょう。でも、本当に大事なことのなかには、結果などそうそう出るものではないことがあったり、そもそも結果ではなく経過自体に意味があったりします。

うちの3人の子どもたちが、二地域居住のおかげでうまく育つ保証はありません。数年後にえらいことになってたら、上記箇条書きは無効でしたとご報告せねば。笑。

でも、自然のなかで一緒にいる時間そのものが愛しくて、たまに面倒で、それでも「あーここの暮らしがあってよかったね」と思える。毎日、いつ死んでも後悔しない生き方だと思える。

それだけです。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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